旅人の和歌帳 7
「私の旅日記」と併せて、ご覧下さい。
余所者の物見冷たし氷柱かな
津軽湾撮る手引っ張る大倉岳水墨の山に僅かな晴れ間
津軽湾地吹雪抱く蟹田かな
評されぬ雪野の踊り子枯れ芒
雪寂し津軽二股振り向けば槌音響く津軽今別
白妙の津軽今別雪降りし貨物列車の地吹雪に舞ふ
奥津軽凍えて啼かぬ冬鴉
地吹雪に舞へば青空蟹田かな
地吹雪で乗客見送る江差かな
江差線別れを告げし木古内で後ろ髪引く江差追分
ほうほうと旧き函館霧笛鳴り汽笛になれど振り向く港
知内や雪掻きの人に降りし雪
龍馬さん函館の雪に耐え続け想ふは何処土佐か函館か
雪宿り讃美歌響きし教会の異教徒なれど沁みる愛かな
雪まみれ駅の片隅雪だるま小さな物でも大きな安らぎ
夜景見しブルーカクテル傾ける双方に酔ふ函館の夜
彩りし宝石迷ふその夜景雪の函館啜るカクテル
気嵐と遠くの嶺々頂きて別れの函館冬の朝かな
朝風の冷たさ変えし桜咲く
桜咲き楽に越せたり春便り越すに越されぬかの大井川
桜咲く池の漣待つ菖蒲
暗き身の若葉恋しき春便り願わくば抜け菖蒲咲く頃
桜
(はな)
愛でし柑橘熟れし神楽かな
巣作りと花見供する親燕
気に入りし桜眺める旅人の同じく視線親燕かな
春祝う鼻歌桜親燕
旅先で夜景眺めつ書く手紙メロンリキュール酒精惑わず
満開の四条の桜に見取れれば舞妓
(きみ)
に妬かれる先斗町かな
お座敷の京都先斗町雪降らば咲く日望みし鴨川の桜
三条と四条名高き橋ありて何処を愛でん尋ねし鴨川
三条で桜探すや街道
(みち)
終わる
痩身に既に用無き悟りても京の桜に醒めし戯言
空清か初物林檎彼岸花
御在所の癒やす涼風夏去りぬ
寿命無しタイムカプセル時待ちぬ生まれて逝りて儚き人間
去りし夏惜しみて捧ぐこのジョッキビヤガーデンで望みし来夏
秋入りて余所はまだ夏ビヤガーデン
ビヤガーデン食欲の秋戦なりステージ見るもこれまた戦
八重桜散りて春継ぐ躑躅かな
仕事退き訪ねし川越昼下がり日常と否の狭間戸惑う
春涼し今日は平日昼下がり日常姿の劇場娯しや
我
(それがし)
の果たせぬ夢を果たし給えクレアモールの高校生達
流通せぬ弐千円札握り締め想ひは違ひに喜悦と回想
躍る旅朝の名古屋は日本晴れ小倉トースト抓む東京人
(よそもの)
ゾロゾロと連れるツアーは遠足か縛られる勿れ愛でし晴天
目に青葉躍れ咲く刻花菖蒲
燕の俊敏判らぬ空の鯉日本人なら勤勉美徳
憧れの時を逃して桜散る後の麗し黄緑と黒
牛肉や朝の松阪至福なり
彼岸花清流さざめく青き栗
毒秘めし朝に艶めく曼珠沙華
草津では温泉饅頭食べ比べ温泉
(いでゆ)
は後に秋の連休
草津にて湯烟温みて駅戻る珈琲牛乳の冷たさ愛しや
大前や御用は撮影鉄道ファン僅かな時で情景切り取る
伝手無きて万座の秋を欲す駅
朝霜を驚く東京
(みやこ)
の薄き四季
通過駅冬の暁鐘はやぶさ号
奥津軽地吹雪舞踊水墨画
青空に春を待つ雪蟹田かな
駒ヶ岳指で拭いし曇る窓凍えし指の撮る技難し
マフラーの乱れを知らず長万部蟹めし頬張る真冬の旅路
殊な客僅かに乗せて残る雪小幌のホームに夕陽輝く
端くれの熊笹輝く朝の雪残雪重しか樅の木林
腕垂らし春待つ痩身冬の樅
処女雪の足跡温もる空知かな
地吹雪に埋もれ客待つ停留所
処女雪の踏みし者無し静寂の明日萌
(あしもい)
駅に雪は降りける
積もる雪力自慢だ樅の枝
僅かなる残り香味わうはまなすの去り行く列車の残雪哀し
巣立つ雛与瀬の空行く蜻蛉かな
蜻蛉や相模湖の湖風涼み舞ふ
釣り糸や湖風に戦ぐ蝉時雨
高見する高速の渋滞昼餉かな熱さ厭わぬグラタンの湯気
山遊び夏の宴の午睡かな
縁ある逝りし者はその彼方入道雲が隠れし場所なり
夏の甲斐葡萄と桃を愛でる旅
夜のカフェ碧き銀杏
(いちょう)
見届けて気鬱を晴らす漲る秋旅
アイスティーガムシロップを入れた筈甘く感じぬ苦き道なら
旅鴉カフェで寛ぐ女子校生綺麗な制服若さ微笑む
足柄の真夜の宴の十三夜寝付けぬ我への贈り物かな
蜻蛉や骸をさらす朝光
庭先で今年も生らす柑橘を饐を待つ実の狐狸の邸宅
皇族と縁ある方とご一緒に参詣の好機偶然畏れる
皇族殿不躾
(ぶしつけ)
ながら共致す神嘗祭
(かんなめさい)
に桜芽吹きし
背後から皇族方をお見送り捧ぐる敬礼漲る心身
我は今鬱に罹りし暗き身て皇族拝謁一条の光
皇族に献上物は無かれけど鬱と闘う熱意捧ぐる
牛鍋を旅路の昼餉その食後服薬の義務夢から醒めし
職失くし我に告げるは三蛙
(栄える)
か華六蛙
(迎える)
か二見のカエル
皇族に拝謁後の賓日館忝
(かたじけな)
くも絢爛与
(あずか)
る
潮風と木造旅館カエル達二見の駅も直黄昏れる
松阪で月に叢雲風流なれ風流語れば焼肉の煙
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