旅人の和歌帳 7


 余所者の物見冷たし氷柱かな
 新青森駅到着間近での一句。
 新青森は冬景色。至る所に氷柱があり、氷柱を見たことがない東京人には珍しい光景だが、何の苦労を知らないとなると、尖っている氷柱の如く冷たく感じてしまう。

 参考文章 冬の青函に旅脚を委ねて
 津軽湾撮る手引っ張る大倉岳水墨の山に僅かな晴れ間
 津軽線郷沢(ごうさわ)付近での一首。
 津軽湾が右手に見える津軽線。津軽湾ばかり撮っていたら、反対側に良い格好の山が聳えていた。大倉岳だが、その姿は白と黒だけで、まさに冬の雪山。そんな雪山に、僅かな晴れ間が覗いていた。

 参考文章 雪の津軽湾を疾走して
 津軽湾地吹雪抱く蟹田かな
 津軽線蟹田駅での一句。
 津軽湾が間近にある蟹田駅に、地吹雪が舞う。

 参考文章 雪降りし風の町蟹田駅
 評されぬ雪野の踊り子枯れ芒
 津軽線中小国駅付近での一句。
 人の足跡すらない津軽の雪原。その中に、地吹雪に翻弄されている枯れた芒。都会とは全く違う津軽の寒さだ。
 枯れた芒を「雪野の踊り子」と表現した所が、如何にも寒さを誘う。

 参考文章 津軽線と雪原
 雪寂し津軽二股振り向けば槌音響く津軽今別
 津軽二股・津軽今別での一首。
 雪降る中、降車客が私一人の寂しい津軽二股駅。しかし、その高台にはJR北海道管轄の津軽今別駅があり、そこでは、2015年開業予定の北海道新幹線建設の音が聞こえている。「雪寂し」の津軽二股と「槌音響く」津軽今別の対比の差が面白い。

 参考文章 津軽今別から津軽二股に送る手紙
 白妙の津軽今別雪降りし貨物列車の地吹雪に舞ふ
 津軽二股・津軽今別での一首。
 僅か特急列車2往復しか停車しない津軽今別駅に雪が降っている。そこに、汽笛を鳴らして貨物列車が通過する。勿論、この駅を通過するのだが、貨物の代わりに地吹雪を置いて通過していった。滅多に体験できない地吹雪が新鮮であり、舞うに十分だ。

 参考文章 津軽今別から津軽二股に送る手紙
 奥津軽凍えて啼かぬ冬鴉
 津軽線中小国駅付近での一句。
 車窓から電線に止まっている鴉を見付けた。「カーカー」と鳴く鴉なのに、この奥津軽の寒さに凍えてしまって、鳴くことができないのだろう。

 参考文章 津軽今別から津軽二股に送る手紙
 地吹雪に舞へば青空蟹田かな
 津軽線蟹田駅での一句。
 慣れない雪と格闘して、目的を果たして戻った蟹田駅。それを褒め称えるかの如く、青空が見えてきた。

 参考文章 雪と青函トンネル
 地吹雪で乗客見送る江差かな
 江差線江差駅での一句。
 (2014年)今年5月で廃線となる木古内〜江差。それを惜しむかの如く、鉄道ファンで混雑していた。30分にも満たない江差での滞在時間を過ごした乗客達を、地吹雪で見送っている江差の町。

 参考文章 去りし江差線に別れを告げて
 江差線別れを告げし木古内で後ろ髪引く江差追分
 江差線木古内駅での一首。
 廃止される木古内〜江差を乗って、各々の行程に戻る鉄道ファン。それは、廃止される江差への鉄路への別れを告げているかのようだ。ほんの僅かな滞在時間だったので、もう少し江差の町を散策したい気持ちを盛り立てるかの如く、「江差追分」が聞こえてきそうだ。

 参考文章 暮れし木古内駅


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