旅人の和歌帳 7


 ほうほうと旧き函館霧笛鳴り汽笛になれど振り向く港
 函館駅での一首。
 かつて函館駅は青函連絡船と接続していて、霧笛が聞こえる駅であった。今は列車の汽笛だけだが、霧笛が聞こえたら、条件反射で港を振り向いてしまいそうだ。

 参考文章 函館の塩ラーメンと夜景
 知内や雪掻きの人に降りし雪
 津軽海峡線知内駅での一句。
 駅のホームで雪掻きをしている人に、ひっそりと雪が降っている。

 参考文章 知内の大秘宝
 龍馬さん函館の雪に耐え続け想ふは何処土佐か函館か
 函館市電十字街駅での一首。
 十字街駅に降りてみたら、坂本龍馬の銅像と会ってしまった。もし、暗殺されていなければ、新天地北海道に渡って、新生日本の為に一肌脱いでいたのかも知れない。だけども、慣れない雪を被っている龍馬さんは、必死に耐え続けている。そんな状況で思っているのは、故郷の土佐のことか、行きたかった函館のことか?

 参考文章 函館での珍客との遭遇
 雪宿り讃美歌響きし教会の異教徒なれど沁みる愛かな
 函館元町カトリック教会での一首。
 雪の中を歩いて疲れてしまったので、丁度門戸が開いているこの教会へ雪宿りした。讃美歌が流れ、雪の寒さを忘れさせてくれた広い教会だった。私はクリスチャンではないが、平等に分け与えてくれる神の恵みを噛み締めていた。

 参考文章 教会での雪宿り
 雪まみれ駅の片隅雪だるま小さな物でも大きな安らぎ
 函館市電末広町での一首。
 屋根が無い道路のど真ん中にある末広町駅に、誰が作ったのか判らない小さな雪だるまがあった。慣れない雪と格闘している東京人にとって、雪に対する気持ちを和らげる大きな安らぎに見えた。

 参考文章 教会での雪宿り
 夜景見しブルーカクテル傾ける双方に酔ふ函館の夜
 彩りし宝石迷ふその夜景雪の函館啜るカクテル
 旅日記に掲載されていないが、ホテルのバーで一服した時の二首。
 夜景が綺麗な函館。その夜景を見ながら、ブルーカクテルを啜った。綺麗な夜景とカクテルの酒精に酔いしれる函館の夜。
 夜景の一つ一つが綺麗な宝石のようで、どれが一番綺麗なのか、そう迷いながら啜るカクテル。
 気嵐と遠くの嶺々頂きて別れの函館冬の朝かな
 ロワジールホテル函館での一首。
 窓から見たら、雪で見えなかった遠くの嶺が見えて、海には何とも綺麗な気嵐(けあらし)が立っていた。滞在した2日は雪が降っていたので、遠くの景色は見えなかったが、この日は晴天だった。そのため、遠くまで景色が見えただけではなく、函館港もよく見えた。その景色を見ながら、私は函館を発つのだ。

 参考文章 晴れた冬の函館の朝
 朝風の冷たさ変えし桜咲く
 桜咲き楽に越せたり春便り越すに越されぬかの大井川
 上は東海道新幹線小田原付近での一句。
 チラホラと桜が咲いている小田原。それは、朝風の冷たさを心地良さに変えてくれるかのようだ。
 下は大井川通過時の一首。
 「越すに越されぬ大井川」と謳われた大井川だが、桜が咲いた春の便りはいとも簡単に越えてしまう。

 参考文章 旅路に春を求めて
 桜咲く池の漣待つ菖蒲
 暗き身の若葉恋しき春便り願わくば抜け菖蒲咲く頃
 桜(はな)愛でし柑橘熟れし神楽かな
 旅行記には無いが、伊勢神宮外宮・内宮での俳句と短歌。
 桜が咲いた時期に、暖かい風が吹いてきて、外宮の勾玉池に漣が立った。近くには菖蒲が植わっている場所があり、咲く時期を心待ちにしている。そんな場所に立つ療養中の我が身。菖蒲が咲く頃には、復帰できるように願った。春を「若葉恋しき」と表現した。
 内宮の神楽殿では、(名前は知らないが)柑橘が生っていた。(途中の)おかげ通りで桜を愛でた後だから、余計春の訪れを感じさせた。できれば、そんな春を愛でる神楽が流れて欲しかったな。
 巣作りと花見供する親燕
 気に入りし桜眺める旅人の同じく視線親燕かな
 春祝う鼻歌桜親燕
 おかげ通りでの二句と一首。
 巣作り中の燕と一緒に、咲いている桜を愛でる。
 その中でお気に入りの桜を見付け、暫く眺めていたら、視線と同じ方向に燕が飛んできた。そして、「桜」と「燕」が織り成す春の光景を見て気分が良くなり、鼻歌が出てきた。

 参考文章 桜咲く伊勢神宮


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