旅人の和歌帳 7


 旅先で夜景眺めつ書く手紙メロンリキュール酒精惑わず
 旅日記に掲載されていないが、松阪のホテルでの一首。
 何ら変わりない夜景を眺めながら、手紙を書いている。その合間にメロンリキュールを啜っているが、酒精の勢いに委せて、暴言失言を綴ることはしない。
 満開の四条の桜に見取れれば舞妓(きみ)に妬かれる先斗町かな
 京都四条大橋の近く、先斗町(ぽんとちょう)での一首。
 四条大橋近くは桜が満開で、暫しこの桜に見取れていたら、舞妓で有名な先斗町が近くにあった。着飾っている舞妓を無視しているから、とんだ嫉妬を買われそうだ。

 参考文章 四条の桜と先斗町の舞妓
 お座敷の京都先斗町雪降らば咲く日望みし鴨川の桜
 先斗町(ぽんとちょう)での一首。
 先斗町と言えば、『お座敷小唄』で有名で、歌の通り、先斗町に雪が降るならば、雪の変わり云々ではなく、近くの鴨川の桜が咲く日が、どんなに待ち遠しいことだろう。

 参考文章 四条の桜と先斗町の舞妓
 三条と四条名高き橋ありて何処を愛でん尋ねし鴨川
 三条大橋の袂での一首。
 三条と四条、両方とも花満開で、良い橋が架かっているが、一体どちらを愛でればいいのだろうか、その橋を潜っている鴨川に問い掛けよう。

  参考文章 三条大橋での国際交流
 三条で桜探すや街道(みち)終わる
 三条大橋での一句。
 三条大橋は、日本橋から続いている東海道の終着地。満開の桜を探しつつ、三条大橋を渡ると、長い東海道が此処で終わるのだ。

  参考文章 三条大橋での国際交流
 痩身に既に用無き悟りても京の桜に醒めし戯言
 新京極での一首。
 療養が長引き、勤務先から勤務終了を言い渡された私。つらい思いを抱えても、京都の桜の見事な咲き具合を見ると、京都の桜の見事な咲き具合を見ると、そのこと自体、(長い人生の上で)どうでもよいという気分になってしまう。

 参考文章 新京極を歩けば……
 空清か初物林檎彼岸花
 桑名三八の市での一句。
 秋晴れの許の朝市で、初物の林檎が出ていた。秋が近づいているのだ。
 時期を明確にする為、秋の花「彼岸花」を用いた。

 参考文章 秋の3連休と三八の市
 御在所の癒やす涼風夏去りぬ
 御在所岳の一句。
 9月中旬、(今夏の思い出を作る為)御在所岳に来たら、涼風に吹かれた。時期柄、「涼しいな」と快感に浸る他に、その涼しさが快感だと思う時が過ぎ去ろうとしている時期なので、夏が過ぎてゆく感触をも取れる。

 参考文章 9月の御在所岳で今夏の娯しみ
 寿命無しタイムカプセル時待ちぬ生まれて逝りて儚き人間
 御在所岳の一首。
 御在所岳の朝陽台展望広場には、タイムカプセルが埋蔵されている。1989年に埋蔵され2019年に開封されるのだが、この25年間多くの人間が生まれたり亡くなったりする上で、タイムカプセルは寿命が無いかのように、ジッと開封する時を待っているようだ。

 参考文章 思わぬ出会いとタイムカプセル
 去りし夏惜しみて捧ぐこのジョッキビヤガーデンで望みし来夏
 秋入りて余所はまだ夏ビヤガーデン
 名古屋栄のビヤガーデンでの一首と一句。
 9月13日、秋に入り掛けているこの時に、今夏で作った思い出を惜しみながら、ジョッキで乾杯をしている光景。それは、来夏が来る時を娯しみにしているように見えた。
 下の句は、秋に入り掛けているこの時でも、服装にしろ、食べ物にしろ、ビヤガーデンはまだ夏の装いを呈している。

 参考文章 2年振りのビヤガーデン


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