旅人の和歌帳 7


 ビヤガーデン食欲の秋戦なりステージ見るもこれまた戦
 名古屋栄のビヤガーデンでの一首。
 食欲の秋、制限時間内で巧く食べ放題飲み放題を娯しむのは戦に相当するが、息抜きとしてライブステージを見ながら、声援を挙げることも戦に相当するのだ。いわば、真剣勝負なのだ。

 参考文章 ステージで迎えた今夏の思い出
 八重桜散りて春継ぐ躑躅かな
 JR北八王子での一句。
 駅前に咲いている八重桜が散り気味を迎えた時に、躑躅が咲いていた。今度は躑躅が春を演出する役目を担う。それは、八重桜から春のバトンを継いでいるかのようだ。

 参考文章 「日常」と「非日常」の狭間に揺られて
 仕事退き訪ねし川越昼下がり日常と否の狭間戸惑う
 春涼し今日は平日昼下がり日常姿の劇場娯しや
 丸広百貨店での二首。
 平日の昼下がり、早退を頂いて遠い場所で休憩していた。この時間は仕事をしている時間だが、今はゆっくり休憩する時間になっている。仕事する「日常」と休憩する「非日常」が交錯していて、滅多に体験できないこの時間に戸惑いを隠せない。
 下の短歌は、その貴重な時間で持って見られる光景が、何とも面白い劇場になっている。

 参考文章 「日常」と「非日常」の狭間に揺られて
 我(それがし)の果たせぬ夢を果たし給えクレアモールの高校生達
 川越クレアモールでの一首。
 平日に歩くと、制服を着た高校生達が続々と擦れ違った。一体、どんな高校生活を送っているのだろうか。願わくば、私が果たせなかった夢を果たして欲しい。

 参考文章 「日常」と「非日常」の狭間に揺られて
 流通せぬ弐千円札握り締め想ひは違ひに喜悦と回想
 埼玉りそな銀行本川越支店での一首。
 思い掛けず、壱万円札を殆ど流通していない弐千円札5枚に両替できた。嬉しさと同時に、弐千円札が発行された2000年をふと回想する。「喜悦」と「回想」という異なった心情が、弐千円札を通して交錯している。

 参考文章 「日常」と「非日常」の狭間に揺られて
 躍る旅朝の名古屋は日本晴れ小倉トースト抓む東京人(よそもの)
 名古屋駅エスカでの一首。
 久し振りの泊まり掛けの旅と言うこともあって、気分は上々。おまけにその日の朝の名古屋は日本晴れ。その朝に名古屋名物の一つ小倉トーストを抓む東京人がいる。

 参考文章 食欲旺盛な余所者
 ゾロゾロと連れるツアーは遠足か縛られる勿れ愛でし晴天
 名古屋駅エスカでの一首。
 小倉トーストを抓んでいたら、ゾロゾロ歩いて行くツアー客に出会した。時間に縛られる遠足ではあるまいし。責めて、この晴天を愛でて欲しいものだ。

 参考文章 食欲旺盛な余所者
 目に青葉躍れ咲く刻花菖蒲
 伊勢神宮外宮勾玉池での一句。
 青葉が目立つこの時期。菖蒲で有名な池には、一株も咲いていなかった。咲く時が本当に待ち遠しい。その心境を「躍れ咲く刻」で表現した。

 参考文章 菖蒲恋しい外宮
 燕の俊敏判らぬ空の鯉日本人なら勤勉美徳
 五十鈴茶屋での一首。
 空に泳ぐ鯉幟を見ながら一服していたら、ピューッと燕が飛んできた。鯉幟はその俊敏さを否定するかのように、ノンビリ泳いでいる。日本人ならば、どちらに好意が持てるのだろうか。勤勉美徳の日本人なら、やはり……。

 参考文章 平成の娯しき直会(なおらい)(5)
 憧れの時を逃して桜散る後の麗し黄緑と黒
 おかげ通りでの一首。
 桜が咲き誇る時期の参詣を試みたが、雨で流れてしまった。その後の参詣は、若葉の黄緑色と燕の黒に彩られて、これもまた見事な季節の絵を創っている。

 参考文章 陽気と若葉の内宮


トップへ
戻る
前へ
次へ



Produced by Special Mission Officer