旅人の和歌帳 7


 牛肉や朝の松阪至福なり
 JR松阪駅での一句。
 松阪から名古屋へ向かう時、朝餉として駅弁を買ったが、何と松阪牛を使用した弁当だった。朝から東京でも「松阪牛様々」と崇められている松阪牛が頂けるとは、まさに至福の一時である。

 参考文章 半年振りの名古屋は栄から
 彼岸花清流さざめく青き栗
 毒秘めし朝に艶めく曼珠沙華
 八高線小川町付近での二句。
 上の句は、清流の辺に彼岸花が咲いていて、(近くの)栗が青い実を付けていた秋の情景を切り取った。
 下の句は、綺麗な赤い花を咲かせる曼珠沙華は、実は毒を持っている花として有名だ。それ故なのか、人気の無い朝に、その姿は実に艶めかしく見える。
(蛇足だが)「彼岸花」と「曼珠沙華」は同じ花。

 参考文章 シルバーウィークと彼岸花
 草津では温泉饅頭食べ比べ温泉(いでゆ)は後に秋の連休
 草津温泉での一首。
 温泉地には温泉饅頭の店が点在していて、各々が味を競っている。その店から試食の温泉饅頭を頂き、何処が一番美味いか調べながら、名物の温泉を後回しにしてそぞろ歩きしている秋の連休。

 参考文章 敬老の日に温泉饅頭を……
 草津にて湯烟温みて駅戻る珈琲牛乳の冷たさ愛しや
 JR長野原草津口駅での一首。
 温泉地から戻った後に、珈琲牛乳を飲んだ。その冷たさが、温泉で温められた身体に染み渡る。

 参考文章 温泉の後の一瓶の珈琲牛乳
 大前や御用は撮影鉄道ファン僅かな時で情景切り取る
 JR大前駅での一首。
 本数が少なく、秘境駅の雰囲気を漂わせる大前駅で降りた人は、地元の人ではなく、此処大前を訪れて、景色を撮ったり、駅構内を撮ったりする鉄道ファンだった。30分も無い停車時間で、鉄道ファンは巧く大前の情景を収めていた。

 参考文章 静かに過ぎゆく「大前の時間」
 伝手無きて万座の秋を欲す駅
 JR万座・鹿沢口駅での一句。
 万座温泉に向かおうとしたが、バスの便が無かった。他に伝手は無かったので、駅でジッとしながら、万座温泉の秋模様をあれこれ想像していた。

 参考文章 万座・鹿沢口で突き付けられた真実
 朝霜を驚く東京(みやこ)の薄き四季
 東北新幹線小山付近での一句。
 朝早くの小山駅を通過した。東京より北にあるので、至る所で朝霜があるだろう。四季の移ろいが薄い東京に住んでいると、驚きは一入だ。

 参考文章 東北新幹線は北に赴く
 通過駅冬の暁鐘はやぶさ号
 東北新幹線那須塩原駅通過時の一句。
 朝早く、東北新幹線が速度を落とさず、那須塩原駅を通過した。周囲に朝が来たことを告げる暁鐘の如く。

 参考文章 東北新幹線は北に赴く
 奥津軽地吹雪舞踊水墨画
 特急「スーパー白鳥」で、津軽線を通過した時の一句。
 処女雪が延々と続き、色彩的にも黒系の物しか目立たない奥津軽(これを「水墨画」と喩えた)。偶然見た地吹雪が、まるでこの地でしか見られない舞踊に見えた。

 参考文章 特急列車から見る津軽の冬景色
 青空に春を待つ雪蟹田かな
 津軽線蟹田駅での一句。
 雪が積もっている蟹田駅で青空が見えた。そして、その日差しで雪が解けていく。残っている雪も、早く解けて春の装いの蟹田を見せてやりたいと、春を待っているように見える。

 参考文章 青空が見える蟹田に風が吹く


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