旅人の和歌帳 7


 駒ヶ岳指で拭いし曇る窓凍えし指の撮る技難し
 函館本線で渡島駒ヶ岳が見えた時の一首。
 渡島駒ヶ岳を撮ろうとするが、窓が曇ってしまい、いちいち窓を拭かなくてはいけない。それも、直に指で。寒さに震えた指で撮ろうとするが、撮るタイミングや震える指がいうことを聞くかどうか、とても難しいのだ。

 参考文章 渡島駒ヶ岳と噴火湾
 マフラーの乱れを知らず長万部蟹めし頬張る真冬の旅路
 長万部で蟹を頂いた時の一首。
 『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』に、長万部で蟹を頂く行程がある。その行程に沿って、私も蟹めしを頂くことにした。その行程が再現できた嬉しさなのか、首に巻いたマフラーの乱れを気にせずに、蟹めしを無我夢中で頬張っている真冬の旅路である。

 参考文章 長万部の蟹と海岸
 殊な客僅かに乗せて残る雪小幌のホームに夕陽輝く
 函館本線小幌駅での一首。
 この駅に繋がる道はなく、小さな海岸が近くにあるだけの秘境駅。そんな駅から乗ってきた特殊(鉄道ファンか?)な客を乗せて、列車は走った。
 駅周辺やホームには雪が残っていて、僅かに見える山の凹みからは夕日が望めた。

 参考文章 嗚呼、秘境駅小幌
 端くれの熊笹輝く朝の雪残雪重しか樅の木林
 函館本線野幌付近での一首。
 下の熊笹が生えている樅の木林を走っていると、日光の反射で熊笹の朝の雪が輝いて見えた。しかし、樅の木は大量の雪を枝に積もらせて、重そうに枝を垂れていた。雪の重みで折れそうな感じだが、大丈夫かな?

 参考文章 処女雪と樅の木の岩見沢
 腕垂らし春待つ痩身冬の樅
 函館本線岩見沢付近での一句。
 樅の木が大量の雪を枝に積もらせて、その重みで枝が垂れていた。おまけに樅の木は太くなく、枝が垂れている様は何処か頼りないが、折れそうで折れない。その状態で、北海道の春をジッと待っているのだ。

 参考文章 処女雪と樅の木の岩見沢
 処女雪の足跡温もる空知かな
 岩見沢を発った函館本線での一句。
 延々と処女雪が続いている。そんな処女雪に足跡が刻まれていたら、此処にも人間の営みの暖かさが感じられる。空知は岩見沢界隈の支庁の名前。

 参考文章 処女雪と樅の木の岩見沢
 地吹雪に埋もれ客待つ停留所
 留萌本線幌糠駅での一句。
 幌糠駅に到着したが、ホームや駅名標は雪に埋もれ、此処で降りる客をジッと待っている。此処で「地吹雪」を用いたのは、地吹雪が運んでくる雪が積もり続けて、ホームや駅名標を埋まらせたことを強調している。

 参考文章 雪降る留萌本線
 処女雪の踏みし者無し静寂の明日萌(あしもい)駅に雪は降りける
 留萌本線恵比島駅での一首。
 処女雪が延々と続き、飽きがきた頃、恵比島駅に到着した。
 恵比島駅は、NHKテレビ小説『すずらん』の明日萌(あしもい)駅として採用された栄光がある。そんな訳で駅舎は立派で、明日萌駅の駅名標もあるが、降車する人はいなかった。そんな静かな明日萌駅こと恵比島駅に、雪は静かに降っている。

 参考文章 雪降る留萌本線
 積もる雪力自慢だ樅の枝
 函館本線砂川駅付近での一句。
 此処でも樅の木林を見付けた。同じく枝には雪が一杯積もっている。しかし、枝を垂らしてしなやかさを見せて、なかなか折れないのだ。しなやかだが強かな樅の枝が、積もる雪に勝てるか、力自慢を披露している。

 参考文章 仕切り直しの札幌観光
 僅かなる残り香味わうはまなすの去り行く列車の残雪哀し
 札幌駅での一首。
 この時期は、2016年3月に廃止になる寝台急行「はまなす」を撮ろうと、多くの鉄道ファンが押し寄せていた。そして、到着するや否や、方々でフラッシュが焚かれ、一種のファッションショーさながらの光景が広がっていた。残り2箇月、唯一の寝台急行の残り香を存分に記録に収めている。廃止になるという事実なのか、列車の上部に残っている雪に哀愁感を感じる。

 参考文章 札幌駅に「はまなす」が咲く夜


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