旅人の和歌帳 1

「私の旅日記」と併せて、ご覧下さい。

 雨上がりの築地に旨し中華そば
 いにしへの栄華偲ばす巡視船
 白砂青松の稲毛に羽ばたく鳳号
 双眼で春の海見る稲毛かな
 千葉みなと潮風薫るこの土地に高く聳えるポートタワーよ
 白い字で恋文を書く石の上微かに薫る稲毛の潮風
 晴れ渡る青空泳ぐ鴎かな
 この旅は長きて娯し新木場の終わりを告げし沈みし夕陽
 さよならと別れを告げし春の日は誇る梅花も枝から別るる
 わかれ道辿る街は異なれどかの地で再び逢える約束
 身体が仄かに温む春陽差しローカル線の停まりし時こそ
 素朴なる東浪見駅から背伸びせば田畑を越えて春の九十九里
 冬の海過ぎて温かき春の海七色彩る夏の若者
 静かなる夜の海と白砂が面影創る月の沙漠
 子供達の娯しきアイドル海のシャチ
 勝浦や山々狭間春の海
 隧道を数えし子供の指先は向こう隣の我が顔を指す
 我が旅は列車の中の人々の一期一会の喜怒哀楽
 グリーン車にサラリーマンが腰下ろし週刊誌読む朝の贅沢
 間もあらず誇る白梅散々に二度と逢えざる我が友達
 車窓から藁に覆われし田園を貫く細道走る女生徒
 空港は出会いと別れの鉢合わせデッキの落書き出会いと別れ
 異国へと旅立つ男の再会に女が残した誓いの落書き
 今日は高校生の最後の日飛び立つ飛行機還らぬあの日
 一人旅隠し切れない寂しさを晴らしてくれた一杯のお茶
 金届けお礼にくれた110円買いし紅茶の温きに綻ぶ
 富津岬展望台から見渡せば久里浜からの春の潮騒
 海見れば幸せ判る今日は水漬く屍の昔を想う
 川越の思ひ出懐かし我一人家族に内緒で思ひ出訪ねる
 静かなる思ひ出の街城下町漫ろ歩きを押す北風
 赤電話触りし子供のぎこちなさ置きし受話器の間違え可愛や
 一皿の団子と緑茶で一休み小江戸川越鐘が鳴るなり
 買わずともふと立ち止まる有馬記念
 見ゆる月接吻交わす冬の夜旅立つ男暫しの別れ
 スキー場へ向かう若人雑談を交わし今宵の寒さ紛らす
 粛々と暗中走るながら号寒風背きて街道走る
 様々な一時過ごす夜行かな如月寒けど寒さ忘れる
 盃を交わす友達此処に無し窓に映りし我と交わせし
 夜汽車から外を眺めて何想ふ甘き恋路と我の行く末
 東京(みやこ)から離るる夜汽車闇の中離るる勿れ男女の心
 浅き夢覚めし外は浜松の朝風代わりの貨物列車
 雨予報晴れ間嬉しき伊勢鉄道バレンタインの淡い差し入れ
 此の晴れ間長く続けとおてんとに何度も拝む些やかな夢
 雨は嘘雲一杯の晴れなれど見ゆる景色色彩々
 静寂な室内展示夢殿は真珠の輝き尚静寂に
 人工の真珠生まれし珠五粒幸吉の涙成功の色
 冬の鳥凍えを恐れる真珠かな
 浜風に細身を揺らす冬の松
 内宮を詣りし後に一休み赤福の旨さ門前の活気
 親切と褒めし我に運転手挨拶交わし外宮に去り行く
 京町の夜の賑わい立ち篭める焼肉の煙と娯しき語らい
 アナウンスの声だけホームに響けども聴く者何処夜の亀山
 一両目広き車両に蛍光灯乗客僅かに我一人
 前方の青いシグナル闇に点き北風寒し寂しき駅舎
 手を擦り温みて待つ身の夜汽車かな


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