旅人の和歌帳 1


 素朴なる東浪見駅から背伸びせば田畑を越えて春の九十九里
 外房線東浪見(とらみ)付近での一首。
 東浪見駅を過ぎると、僅かながら左に海が見えてきた。背伸びすると、田畑を越えた所に九十九里浜がよく見えるのだ。

 参考文章 記念日に外房へ……(後)
 冬の海過ぎて温かき春の海七色彩る夏の若者
 太東駅での一首。
 冬の寒い海は過ぎて、温かい春の海がやってきた。そんな海に、華やかなサーフボードを抱えた若者が降り立った。サーフィンは一年中出来るそうだが、私から見れば、夏の華やかで賑やかな海を先取ろうとする意気込みが感じられた。

 参考文章 記念日に外房へ……(後)
 静かなる夜の海と白砂が面影創る月の沙漠
 御宿の月の沙漠記念像での一首。
 「月の沙漠」の作詞者加藤まさを氏は、此処御宿出身で様々な童謡を手掛けた事で有名だが、歌詞を読んだ以上、この「月の沙漠」は恐らく人の気配が無く、静かな夜の白砂の御宿海岸を思い起こして筆を執ったのだろう……。その面影が像にも出ているようだ。

 参考文章 ロペス通り・月の沙漠記念館
 子供達の娯しきアイドル海のシャチ
 鴨川シーワールドでの一句。
 普段見慣れないシャチのショーに興奮しているが、同時にショーを演じる係員にも、「シャチと仲良くできる」という憧れを持っている。ショーが成り立つまでシャチと親しくする苦労は判らなくても、「シャチと一緒に遊びたい」と無邪気な子供の声が聞こえてきそうだ。

 参考文章 鴨川シーワールド
 勝浦や山々狭間春の海
 外房線勝浦付近での一句。
 この辺になると、隧道が多くなり、外房の海を見るのが難しくなっていく。山を突き抜ける隧道と隧道の狭間に、春の海が見える。
 旅日記では、帰路で採用しているが、鴨川に向かった時に作った句である。

 参考文章 帰りの特急列車
 隧道を数えし子供の指先は向こう隣の我が顔を指す
 外房線勝浦付近での一首。
 前述の通り、この辺は隧道が多く、私も幼少時には、何回も隧道の数を数えていた。
 特急列車に乗っていた時、私の向こう隣に座っていた親子も、隧道の数を数え始めたのだ。その時、子供は隧道の数を一生懸命に数えていたが、その指先は私の顔を指していた。

 参考文章 帰りの特急列車
 我が旅は列車の中の人々の一期一会の喜怒哀楽
 特急「わかしお」で、相席になった貴婦人と会話を交わして、作った一首。
 実を言うと、当時何気なく作ったこの短歌が、私の旅のベースになっている気がしてならない。
 その理由は、(列車に限らず)相席になった人と会話を交わすだけでも、私の旅に花を添えてくれるだけではなく、二度と会えない一期一会の友人になれる。それだからこそ、此処で起きた喜怒哀楽を大事にして、生きていきたいのだ。

 参考文章 帰りの特急列車
 グリーン車にサラリーマンが腰下ろし週刊誌読む朝の贅沢
 成田空港に向かう途中、総武快速線車内で作った一首。
 細々として何をするにも、周囲に気を遣わなくてはいけない普通車両に較べて、グリーン車はゆったりとしている分、何をするにも何処かしら、贅沢感が漂う。グリーン料金を払って、(普通車両でもできる)週刊誌を読んでいる様も、贅沢に見える。

 参考文章 成田空港へ……
 間もあらず誇る白梅散々に二度と逢えざる我が友達
 総武本線津田沼駅の近くに大学があり、それで一首作った。
 咲き誇っている白梅がじっくり愛でる事なく、散々になるように、私の友達も高校卒業を機に、二度と逢えないのだろう……。

 参考文章 成田空港へ……
 車窓から藁に覆われし田園を貫く細道走る女生徒
 佐倉付近で見掛けた光景を基に詠んだ一首。
 休閑中の藁に被われた田畑に細い道があり、その道を部活動の女生徒がランニングしている。

 参考文章 成田空港へ……


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