旅人の和歌帳 2


 乙女とは名ばかり美し殉教の儚き命弔う粉雪
 津和野カトリック教会での一首。
 津和野から程近い乙女峠に、幕末長崎で捕らえられた切支丹が幽閉された。「乙女」とは名ばかり美しく、実際は名前とは掛け離れた出来事が、改宗を迫る為の様々な拷問で亡くなった事を思うと、降る粉雪も乙女峠で殉教した切支丹を、ひっそりと弔っているようだ。

 参考文章 津和野カトリック教会
 雄雌の鴨が集いし菜の花が咲けど風も水も冷たし
 津和野での一首。
 町を流れている津和野川に鴨が泳いでいて、その近くに菜の花が咲いていて、春を思い起こさせるが、現に吹く風も冷たく、自然に流れる水も冷たく思えてしまう。春の雰囲気はまだ薄いのだなぁ……。

 参考文章 津和野の旧宅巡り
 白狐湯気の幻湯田の街
 湯田温泉での一句。
 1匹の白狐が脚の傷を癒し、そこから金の観音像と共に、温泉が湧き出した伝説があると聞いて作った。

 参考文章 湯田温泉で温泉開眼
 春恋し常緑被う五重塔梅散る時の西の山口
 山口瑠璃光寺での一首。
 梅が散る頃、季節感が薄い常緑樹に覆われている五重塔を眺めて、春が来るのを待っている。

 参考文章 大内文化の象徴 瑠璃光寺
 埴生(はぶ)越えて遠くに聳える関門の春は来たかと隠す靄かな
 山陽本線埴生付近での一首。
 埴生を越えて、これから向かう関門海峡に思いを馳せている。周防灘から眺めると、関門付近は靄が掛かっていて、「関門に春が来たのか?」と思わず問い掛けてしまいそうだ。

 参考文章 目指すは、関門海峡!
 春来れど旅する男は孤独なり
 カモンワーフでの一句。
 春はすぐそこだが、旅に自分の脚を委ねている男は、独りなのだ。

 参考文章 カモンワーフ
 椿散り霧笛轟く和布刈かな
 和布刈(めかり)神社での一句。
 神社近くに椿があり、丁度散り頃を迎えていた。関門海峡を行く船の霧笛が轟いている。

 参考文章 平氏と若布と和布刈神社
 赤間まで霧笛届けば阿弥陀寺の今に伝える芳一の琵琶
 赤間神宮での一首。
 平氏と耳なし芳一の伝説を今に伝える赤間神宮。(赤間神宮)此処まで関門海峡を行き交う船の霧笛が聞こえれば、「波の下にも都がある」と言って、安徳天皇を抱いて入水した平時子の願いが(或る意味)叶ったので、源平の戦いを奏でた芳一の琵琶も、自ずから聞こえてきそうだ。

 参考文章 阿弥陀寺と赤間神宮
 子は娯し老は懐かしSLの汽笛娯しみ彩る紅葉
 SL「やまぐち」号での一首。
 紅葉が色付く時期、滅多に乗れないSLに、子供達は大はしゃぎし、年配者達は懐かしむ。更に時折聞こえるSLの汽笛が、娯しみに花を添える。

 参考文章 SLでの吉報報告
 熟れた柿揺らして落とす汽笛かな
 SL「やまぐち」号での一句。
 熟れた実が生っている柿の木の傍に、SLが通り過ぎた。SLは汽笛を鳴らして、柿の木を揺らしている。まるで、熟れた実を落としているかのようだ。

 参考文章 SL「やまぐち」号の歓喜絵巻


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