旅人の和歌帳 4


 残雪や卯月の暦は未だ冬
 旅日記に掲載されていないが、中央本線塩崎・穴山付近での一句。
 車窓から南アルプスが見えてきて、冠雪していた。春真っ盛りの4月だが、あすこだけはまだ冬のようだ。
 諏訪の街温泉が湧きて湖の雄々しき姿に旅人立ち寄る
 10年前、諏訪湖に立ち寄った時の一首。
 上諏訪には温泉や諏訪湖がある。その諏訪湖は御神渡りで有名でもあり、「暴れ天竜」こと天竜川の源流でもある。その雄々しき姿にふと、旅人が立ち寄ったのだ。

 参考文章 諏訪湖の辺を歩けば
 湖の開きし春に鴨泳ぐ諏訪湖の辺の幼き姉妹
 諏訪湖での一首。
 湖開きの日、諏訪湖の辺で鴨が泳いでいるのを、幼い姉妹が見付け、その鴨を面白そうに眺めている光景を短歌に認めた。

 参考文章 諏訪湖の辺を歩けば
 遊覧船景色に飽きてあやとりの糸を引っ張る幼児の心
 10年前、諏訪湖遊覧船「すわん」丸に乗船した時の一首。
 「すわん」丸からは、諏訪と岡谷の街が見えるのだが、一緒に乗り合わせた幼児達は、その景色に見飽きたのか、あやとりを始めた。そのあやとりの糸を引っ張る姿は、「成程、幼児だ」と思わせてくれる。

 参考文章 諏訪湖の辺を歩けば
 奈良井宿飛脚の如く燕かな
 双六の歩みで巡る奈良井宿疾風の燕も倣ひし双六
 奈良井宿での句。
 奈良井宿の空にピューッと燕が飛んできた。時間がゆったりとしている此処奈良井宿では、都会のような忙しなさが無く、何処か飛脚のように素速い印象を受けた。

 参考文章 中山道奈良井宿
 東京には無かりし爽快松本にあり静かな駅で聳ゆる残雪
 旅日記に掲載されていないが、朝の松本駅での一首。
 混雑極まる東京の駅では全く存在しない爽快感が、此処松本にある。それは朝でありながら、静かな場所があり、暫く時間を気にせずに過ごせる。そんな駅で、遠くに聳える残雪が寄り添う快感を助長させてくれる。
 新緑や木漏れ日愛でる外宮かな
 伊勢神宮外宮での一句。
 参詣を終え、ふと顔を上げると、外宮の常緑樹が茂っていた。そろそろ若葉が生えてくる時期だから、淡い葉が目立っている。その葉々の合間を潜る木漏れ日が、心地好い暖かさを醸し出していく。もう、肌寒い時期は過ぎ去って、心地好い暖かさがやってきたのだ。

 参考文章 木漏れ日と外宮
 青葉映えせせらぎ麗し五十鈴川飲みし深煎り苦みも貴し
 おかげ通りの五十鈴川がよく見えるカフェでの一首。
 晴れた日の食後、五十鈴川を見ながら深煎り珈琲を飲んでいると、周りの木々の青葉がこの陽気で一層映えて、五十鈴川のせせらぎを良い涼を誘ってくれる。余りお金を掛けずにこのような良い時間が過ごせるので、飲んでいる珈琲の苦みも貴い物に感じてくる。

 参考文章 平成の娯しき直会(なおらい)(2)
 時計見て忙しく啜るかけそばの様みて笑う熊野の朝かな
 紀勢本線熊野市駅のそば屋での一首。
 時間までまだあったので、腹拵えにかけそばを啜ったが、時計を見る癖を出してしまい、店員から「東京の人かい?」とからかわれてしまった。此処には時間を気にして過ごす行為は、愚かな行為と見なされてしまう。そんな光景を嘲笑している熊野の朝である。

 参考文章 寄り道の名古屋観光
 名古屋駅コインロッカー空きは無し大型連休勢いを知る
 名古屋駅での一首。
 荷物を預けようとコインロッカーを探したものの、何処も彼処も埋まっている。100年に一度の大不況と叫ばれている昨今、この大型連休は景気づけにパッと旅行しようという一般大衆の心理が読み取れる。

 参考文章 寄り道の名古屋観光


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