旅人の和歌帳 3


 東京から去りし113系写真撮る弥生十八日浮かぶ面影
 東京駅での一首。
 平成18年3月17日を以て、東海道本線113系と一階造りのグリーン車も引退する。その噂を聞き付けた人達が、頻りに113系を撮影していた。そして、3月18日を迎えれば、かつて停車していた113系の面影だけが残ってしまう。

 参考文章 さらば、113系グリーン車!(前)
 名残惜しき113系グリーン車の座れし羨望あな面白や
 113系グリーン車内での一首。
 3月17日を以て引退する113系。しかも、猶予はあと2日。その事もあってか、この日は113系のグリーン車に乗りたい乗客が後を絶たず、グリーン車は普通車両と見紛う程、混雑を極めた。運良く1階造りのグリーン車に乗れた嬉しさを謳った。

 参考文章 さらば、113系グリーン車!(後)
 門前の琺瑯看板懐かしや開店前の門前彩る
 豊川稲荷門前の豊川いなり商店街での一首。
 商店街には、昔懐かしい琺瑯製の看板が飾られていて、参詣者に懐かしさを与えてくれるし、開店前の寂しい門前を華やかに飾っている。

 参考文章 豊川稲荷門前
 春雨に煙る熱田の宮詣で熱き豚まん湯気も煙りし
 熱田駅での一首。
 春雨に煙る名古屋熱田の熱田神宮に参詣した後に、昼餉代わりの豚まんを頂いた。出来立ての証拠の湯気も煙る……。

 参考文章 春雨煙る遠州へ……
 清き水サラサラ流れる大垣の寄りし桑名の栄えを尋ねる
 大垣市街にある『奥の細道』結びの地での一首。
 松尾芭蕉は此処から川を下って桑名に向かった。この旅で桑名に立ち寄った私は、その繁栄の様をサラサラ流れる清き水に尋ねた。

 参考文章 『奥の細道』結びの地
 長良川辺に留まりし屋形船帰路に乗れぬ悔しさ流せ
 岐阜城での一首。
 岐阜城の展望台からの眺望に見取れていると、市内を流れている長良川が見え、そこには鵜飼いの屋形船が繋留されていた。折角岐阜まで来たのだから、鵜飼いを娯しみたいのだが、此処に宿泊する余裕は無く、敢え無く何処にも立ち寄らず、帰路に就くことになってしまった。折角屋形船を見付けたのに、それに乗れない悔しさを、屋形船が係留されている長良川に流してしまえ。
 従来は「長良川辺に留まりし屋形船帰路の旅路に乗れぬ悔しさ」であったが、悔しさを引き摺って帰路に就くのは、みっともなく見えるので修正した。

 参考文章 岐阜城(後)
 一人席座れる嬉しさ殿様か
 夏の夜行通路を埋めし人集り引揚船にも然も似たりけり
 ムーンライトながら乗車時の一句と一首。
 これを書いた時は、丁度青春18きっぷの利用期間内で、ムーンライトながらは格好の距離稼ぎとして有名である。それ故、指定券が取りづらく、私はネットオークションで何と、1編成に3席しかない1人席の指定券をゲットした。隣席に気兼ねせずに過ごせる嬉しさが、気分を殿様にさせてくれる。
 また、このムーンライトながらは、始発の東京からは全席指定席なのだが、(下りは)小田原から一部が自由席となるので、それを狙って乗車する人が多い。しかし、なかなか座れず、通路に立ちんぼになる人も多い。
 私は掛川付近で目覚めたのだが、通路には人の波。私の席の周りにも人がいて、足の踏み場が無い状況。何に例えようとしたら、(古いが)大陸から日本に邦人や遺骨を輸送した引揚船が浮かんだ。こんな混みようだったのかな?

 参考文章 始発のJR飯田線
 一株の桃色紫陽花長篠の朝の涼しさシャンと引き立つ
 飯田線本長篠到着時の一首。
 駅舎に駅員が丹念に育てた桃色の紫陽花(あじさい)が一株あった。朝独特の涼しさに拍車を掛けてくれる。

 参考文章 天竜峡まで
 朝蝉や車内に響きし奥三河
 飯田線乗車時の一句。
 三河の大都会豊橋から、豊川、本長篠と徐々に奥三河地方に入る飯田線。停車中でも、朝蝉の鳴き声が聞こえてくる。

 参考文章 天竜峡まで
 唐笠港舟を迎えるアヒルたち日陰で餌やる家族連れかな
 天竜川ライン下り終点の唐笠港での一首。
 舟が着こうとすると、唐笠港で飼われているアヒルが水浴びをしながら、乗客を迎えていた。その愛嬌に子供達は一斉に餌を与え始めるが、直射日光を気にして、日陰に寄らせて餌をやる親の姿を捉えた。

 参考文章 天竜峡ライン下りのトップ賞


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