旅人の和歌帳 5

 錦糸町車窓に映るスカイツリー温きお茶飲む夏の朝かな
 総武本線錦糸町駅での一首。
 駅の北側に(千葉行きの列車では、左側に位置する)思わずスカイツリーが見えてきた。偶然の出会いに密かに喜びながら、温かいお茶を啜る夏の朝の光景。

 参考文章 夏の銚子へ……
 夏空に秋の蜻蛉稲穂かな
 総武本線成東駅での一句。
 夏空に秋の蜻蛉が飛んでいる。周りの稲も色付いていて、夏から秋へ移り変わる時期である。

 参考文章 夏の銚子へ……
 摘み立ての苺の味はキスの味甘い昔の思ひ出浮かぶ
 成熟の赤いイチゴの接吻し酸いか甘いか素の姿問う
 成東の春の便りは菜の花と甘く色付くハウスのイチゴ
 総武本線成東駅ので三首。
 12年前(2000年)に成東にあるいちご園に出掛け、いちご狩りをしていた時に一気に詠んだ。
 上の短歌は、摘み立てのいちごの味に、ふと昔の想い出が蘇った喜び。
 中の短歌は、赤いいちごは如何にも甘そうだが、一口頂いて、甘いかすっぱいか素の姿に一喜一憂している。
 下の短歌は、成東の春の便りはハウスのいちごの赤と、菜の花の黄色である。

 参考文章 夏の銚子へ……
 未だ知らぬ向こうは何かと水平線ぼやけて見えぬ小も知りたし
 JR総武本線で、九十九里浜に沿って走っているときの一首。
 あの水平線の向こうは何があるのだろう。目を凝らしても、ぼやけて何も見えない。ほんの些細なことでもいいから、知りたいのだ。

 参考文章 新しい銚子電鉄とアナログオンリーのバス
 たい焼きの湯気に咽ぶや青朝顔
 旅行記には無いが、銚子電鉄観音駅での一句。
 暑い8月に、名物であるたい焼きを頬張ると、湯気が傍らで咲いている朝顔に掛かった。暑い時期なのに、熱い湯気はウンザリとばかり、朝顔が湯気を咽せ込んでいるかのように、(上を向いて)咲いていた。
 紫陽花や徒花咲きぬ炎天下
 銚子電鉄本銚子駅付近での一句。
 線路の傍らに紫陽花(あじさい)が、一輪だけ咲いていた。紫陽花の時期は終わり、周りには仲間が無い。折角(綺麗に)咲いたのに、容姿は殆ど褒められず、時季外れと言うだけで貶されてしまう徒花のようである。

 参考文章 徒花と犬吠埼
 板塀に止まりて啼く蝉佐原かな
 佐原の街並みの一コマを詠んだ一句。
 佐原の古き良き街並みが続いている一角で、程良い古色に変わっている板塀に蝉が止まって、啼いていた。

 参考文章 小江戸佐原
 蝉時雨早稲の稲刈り秋の歌
 旅行記には無いが、成田線滑河駅付近での一句。
 蝉時雨の中、早くも稲刈りをしている光景を見付けた。稲刈りの音が秋の歌に聞こえる。秋が近付いているのだ。
 七輪の煙が躍るビヤガーデン暮れ行く名古屋に杯傾ける
 大名古屋ビルヂングビヤガーデンでの一首。
 七輪の煙がモクモク上がって賑やかなビヤガーデンで、徐々に暮れ行く名古屋の街に向かって(ウーロン茶ながら)乾杯した。

 参考文章 ビヤガーデンの戦闘開始は焼肉で
 仕事中華やかなステージ仕切りつつ華やかに酔ふガードマンかな
 大名古屋ビルヂングビヤガーデンでの一首。
 ビヤガーデンのステージが始まった。ノリの良い客が盛り上がり、その華やかなステージを仕切るガードマン。その華やかなステージを見ながら、仕事の疲れを癒している。

 参考文章 ビヤガーデンの想い出のステージ


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