2013年1月19〜20日 癸巳初詣歌集

(2013年1月19日) 癸巳初詣歌集 1


 2013年1月19日、初詣に出掛けた。14日に降った雪が至る所に残されている早朝から。
 昨年、私としては最初の初詣が大変印象的だったから、今年も出掛けようかなと思ったまでである。普段は滅多に見られない初詣の熱田神宮や伊勢神宮が、予想以上に殷賑を極めていて、流石に由緒ある神宮だなと感心した。ニュース等でしかその殷賑が判らなかったから、その殷賑の中に私がいるのは感動だった。
 さて、本当は12〜14日の3連休に出掛ける予定だったが、12日に急遽仕事が入り、ご破算になった。少々気が滅入ったが、天気が悪くなるという事を言い聞かせて見送った。それが当たったのか、14日は東京でも雪が降ったので、そのまま初詣に出掛けていたら、帰路の新幹線に何時間も缶詰にされ、14日中に帰れなかったのかも知れない。ここぞと言う時に幸運に恵まれるのだから、私の強運は何処か侮れない気がする。
 して、1月19・20日の2日間、初詣に出掛けた。その折に和歌を認めてみた。初詣だから、それに相応しい和歌をと思っていたが、「初詣」と綴られているのは、初詣した熱田神宮と伊勢神宮が殆ど。後はその情景を詠んだ和歌ばかりだが、「雪」、「屠蘇」と、幾分か季語が入っているので、何卒ご容赦願いたい。今回は昨年の倍以上(俳句・和歌を合わせて)20認めたが、その中でも、私が自信を持って詠める和歌を8つ程披露したい。
 昨年もこれと同じ和歌を認めたのだが、昨年とは違う初詣になったという事をご理解下されば幸いである。


 道端の残り雪踏む旅の靴痩身に悴む胸の冷たさ

 19日の早朝に家を出たら、14日に降った雪がまだ道端に残っていた。丁度私は靴底がしっかりしている靴を履いているから、雪の上を歩いても、滑ることはまず無いが、吸う空気がとても冷たく、吸った空気が肺に入っていく感触が判る程。マフラーを巻いて、コートを羽織って防寒対策は万全だが、吸う空気だけはどうにも出来ない。ただでさえ痩身に悴む。その悴みを必死に堪え、初詣に出掛けるのだ。
 時35分の始発で東京に向かい、6時7分の熱海行きに乗って、熱海に向かった。しかし、伊豆山神社に向かうバスは、ほんの1〜2分前に出発してしまい、十数分バスの中で待機された。このバスはICカード等が使えない一昔前の造り。
 源頼朝と北条政子の逢瀬の地として有名な伊豆山神社へ向かった。鳥居を潜る前にニホンザルに出会った。襲う気配は無く、朝早くからの参拝者に訝しげに見ていた。
 豆山神社では、時間が早くお神籖は引けなかった。しかし、此処から海と初島の眺めは最高だ! きっと二人も、この景色を眺めながら、平家打倒の夢を語り合っていたのかも。
 て、此処にはアタミザクラという桜があって、地中すぐ近くに温泉脈が走っているので、一般の桜と開花時期が早く、毎年1月頃に咲き始めて、開花している時間も長いのが特徴。実は熱海に立ち寄ったのは、このアタミザクラが咲いているかどうか確かめに来たのだ。
 伊豆山神社とは正反対の糸川に向かう。さて、どうかなと見た所、蕾ばかりで咲いていなかった。まだ早かったか……。初詣に桜を愛でるという事は出来なかった。お慰みに、ホットミルクティーをサンビーチで啜った。

 上は伊豆山神社。
 下は伊豆山神社から見た初島。



(2013年1月19日) 癸巳初詣歌集 2

 海から新幹線で名古屋に向かった。到着は丁度昼餉時。昼餉を摂って、熱田神宮に向かうとしよう。此処名古屋はご当地メシが豊富。約2ヶ月ぶりの名古屋だ。ご当地メシでもと思ったら、お目当ての店は行列。諦めて、他の店を探したら、何とステーキハウスで昼餉を摂ることに。味噌かつやひつまぶし、味噌煮込みうどん等摂れば、素直に名古屋に来たと判るのに。でも、220グラムのサーロインを豪快に平らげたからいいとしよう。


 初詣貴殿も参るか飛ぶ鴉

 古屋の熱田神宮に到着した。前回は1月上旬に初詣したので、両脇に露店があり、露店の食べ物を旨そうに抓んでいる光景があちこちで見られたが、今回は中旬だったので、露店は無かった。
 初詣を済ませ、お神籖を引いたら小吉。その内容は「来年の準備をせよ」という事だった。来年の準備? 1月なのに、いきなり「来年」とは妙だな。どういうことなのか。「貯金をしっかりせよ」なのか、「一通りの英会話が出来るように」なのか、いや「新天地に望む準備や心掛けをせよ」なのか……。私の人生に於いて、しっかり準備を整え、運命に立ち向かえという事なのか。時間はタップリあるから、しっかり準備を整え、来年に望むとするか。如何なることなのかは判らないが、(前もって)準備した者が勝ちなのだろう。料理の下拵えと同様に。
 お神籖を結ぼうとしたが、やはり満杯。お神籖の結果を見て、各々悲喜交々(お神籖には良いこと、悪いことが書いてあるから)。何とか隙間を見付けて、結んで熱田神宮を発った。
 鳥居を潜ろうとしたら、1匹の鴉が鳥居をスゥーイを潜って、境内に入って行った。結構大きい鴉だが、人を襲う気配は無さそうだ。ハハァ、さてはこの鴉も熱田神宮へ初詣に来たのだろう。殊勝な鴉と褒めてやりたいが、御手洗場でのお清めは心得ているのか。賽銭は持ってきているのか。お神籖の引き方は知っているのか。
 の後、大須観音に向かい、その一角の万松寺(ばんしょうじ)で、珍しく凶を引いた。余り凶を引かない私だが、どうも万松寺では余り良いお神籖を引かない。この万松寺には身代不動明王が祀られていて、かの織田信長公も拝んでいたという曰く付き。1570年頃、越前の朝倉氏を討伐の折、鉄砲の名手に狙撃されたが、この寺の住職から貰った干し餅に命中したので、一命を取り留めた伝説があるのだ。参拝者にも、「大事故に遭ったが、軽い怪我で済んだ」や「大病を患ったが軽く済み、経過も良い」と霊験灼か。余所者の私には、効果が無いのかな?
 ふて腐れ気味で、行き付けのカフェで珈琲を一杯。ブラジル産の一級品を頼んだが、凶を引いた余韻なのか、スンナリ腑に収まらなかった。
 阪のシティーホテルで旅装を解き、行き付けの焼き肉屋に出掛けた。よく考えてみると、伊勢志摩を旅行した際の夕餉は、殆ど松阪ホルモン焼肉になっているし、焼肉を頂く場所も殆どが松阪だ。どうも東京で頂く気は無い。松阪だから、松阪牛を出していなければ駄目だからね。贅沢な初詣だこと!


 初詣にシャトーブリアン望みます重いか否か旅路の財布

 阪の行き付けの焼肉屋で、豪快に高級品となった牛タン2皿、ヨボ(肉牛の心臓)、特選ウデ(肉牛の腕に近い部分)を平らげた。今年初めての焼肉にしては、些か(いささか)贅沢な気がする。しかし、上には上がある物で、中でも「シャトーブリアン」は高嶺の花。シャトーブリアンはフランスの政治家の名前で、彼が好んだ牛肉の部位だが、1頭の肉牛から取れるのはほんの僅か。写真で見たら見事な霜降りで旨そうだ。値段も税込で4725円(当時)。牛タンが1365円だから、どれだけ高級かはお判りだろう。折角の初詣だ。大いに奮発したいと思ったが、余計な散財はしたくないし、牛タン2皿も平らげたのだから、これ以上の贅沢はいいと思い、今回は控えた。
 控えたとはいえ、1回でもいいからシャトーブリアンを所望したい。その時は、旅費を多く持っていくとするか。

 写真は初詣時の熱田神宮。



(2013年1月19日) 癸巳初詣歌集 3

 テルに戻った私は、焼肉屋に行く前に冷やしておいた地麦酒「COEDO」の「漆黒」を飲み始めた。この麦酒は川越で売られている麦酒だが、麦酒の本場独逸(ドイツ)で開催された麦酒関係のコンテストで、見事日本の麦酒で初めて賞を頂いたというお墨付き。
 この「漆黒」は黒麦酒で、苦みは強いがコクと深みがあって、麦酒通にはオススメの1本だ。とはいえ、殆ど麦酒を飲む機会が無い私が、スイスイと啜れる訳がなく、チビチビ飲んでは自宅から持ってきたレディーグレイという柑橘類の皮を香り付けに使った紅茶を交互に啜っていた。
 何気なく外を見ていたら、松阪の街並みの夜景があった。派手なネオンサインは無く、静かな住宅街の向こうに大道があるのだろう、電灯や車の赤いランプが郷愁を誘った。また、住宅地の一角に信号があるのか、青と黄色の明かりが見えた。旅先ではこんな夜景でも見入ってしまう。どんな営みがあるのだろうか。余所者にとっては、何の知識の足しにもならない物でも、どうしても知りたくなってしまう。
 急に雰囲気を高めたくなってきて、室内の全ての明かりを落とし、夜に聴くに相応しいロス・インディオスを聴きながら、黒麦酒と紅茶を交互に啜り、合間にビーフジャーキーを抓んだ。耽美なデュエットが大人の夜の世界を醸し出してくれる。本当に良い曲だ。ロス・インディオスは父親が持っていたテープで子供の頃から寝る時に聴いていたので、余計曲の耽美が染み渡る。齢34でロス・インディオスに浸っているなんて、変かしら?


 ネオン消え二感融けし黒麦酒

 には「ネオン」とあるが、此処にはネオンサインは無い。しかし、点っていたネオンサインが消えるという事は、本格的な夜がやってきたという事にもなる。そのネオンが消えて、漆黒の夜がやってきた。その夜景を眺めながら、黒麦酒を啜るのだ。視覚と味覚が漆黒に融けた一時がそこにある。


 静かなる夜景見入りて屠蘇を飲む眼にも口にもその名は「漆黒」

 やかな場所は見当たらず、ただ住宅街が広がっている夜景を見入って、麦酒を啜りながら、ロス・インディオスを聴いている。夜景もネオンサインが無く、街灯も漆黒の夜に宝石みたいにキラキラ光っている。屠蘇として啜っている麦酒も漆黒色。そこに余計な色は無いから上品に見える。
 屠蘇は本来元旦に飲む酒のことだが、初詣の夜に屠蘇と洒落込んで黒麦酒を啜り、夜景を眺めている所が、何処か浪漫があって面白い。


  微酔ひて暫し眺むるぬばたまの夜景の色も麦酒も漆黒

 販されている350ミリリットルの麦酒すらスイスイ啜れない私が、半分位(150ミリリットル)飲んだ所で、良い具合に微酔い(ほろよい)になった。一旦、黒麦酒を飲むのを止め、暫く酔い醒ましに前述の夜景を眺める。
 「ぬばたま(射干玉)」は枕詞で、「黒」、「夕」、「夜」、「夢」、「月」と夜に関係する言葉に掛かる。今回は「黒」と「夜」の二つに掛け、「漆黒」を強調した。このようにして古語を使い、二つの夜に関係する言葉を掛けるのは、これもまた贅沢な一首だろう。



(2013年1月20日) 癸巳初詣歌集 4



 日は伊勢神宮へ向かった。最寄りの伊勢市駅で降りたら、10年近くも閉店している百貨店が漸く取り壊しに掛かっていたり、新しいホテルが建つのだろうか、暫く空き地になっていた広場が工事中になっていたりと、伊勢神宮の式年遷宮を区切りとして、新しい駅前を造ろうとしている姿があった。とにかく、今の伊勢市駅周辺は宇治山田駅と較べて寂しいので、華やかになって欲しいものだ。
 10年以上伊勢神宮に参詣しているが、この外宮付近も多少変わった印象がある。次々と伊勢に本店を構える店が新たに出店していたり、バス停の隣の小さな広場では、地元特産品や茶菓子を売っている露店が多く見掛けられるようになった。すると、「臨時バス乗り場」の文字が眼に入った。前回の初詣と同様だ。内宮は相当混んでいるに違いない……。
 その予想は見事命中! 内宮に入る十字路は渋滞。内宮へ繋がる道に入れるのは、観光バスや路線バスだけ。自家用車は近くの広大な駐車場へ止めてから内宮へ向かうので、渋滞が酷くなる。そのナンバープレートを見ると、中京や近畿が多かったが、時折横浜や千葉等関東から参詣に来た人もいた。関東では明治神宮や成田山新勝寺、川崎大師が有名だが、アンケートで「初詣したい寺社は?」の答えで、ダントツ1位が伊勢神宮だったのを思い出した。やはり、歴史があるし江戸時代から脈絡と受け継がれてきたお伊勢詣りに行きたい気持ちの強さが判る。その気持ちの強さが見事叶った人なのだ。それが叶う前の試練と言った所だろう。
 を戻して。途中の猿田彦神社前で下車し、猿田彦神社に参詣した後に内宮に向かった。おかげ通りもやはり混んでいた。景気良く赤福を数箱買って、おかげ通りを歩く参詣者。「最後尾は此処」のプラカードを見付けて、急ぎ足で駆け込み、土産を買い込もうとする参詣者。参詣後なのだろうか、昼餉の場所を探しながら、談話を交わす参詣者。そんな光景を両目で追いながら、漫ろ歩きで内宮へ向かう。


 双六やこれ内宮の初詣足踏幾重詣れぬ正殿

 宮は混んでいた。やはり、あの臨時バス乗り場があるからだ。臨時バスでルンルン気分で内宮に来ても、まだ混雑に見舞われる。伊勢神宮の初詣は甘くないね。
 正殿は混んでいた。特に真ん中は大渋滞。昨年は脇から通って参詣したので、20日頃ならば、幾分か空いているのかなと思っていたが、どうも計算が合わなかったようだ。仕方なく脇から通ったが、何と上手い具合に真ん中に入ることが出来た。しかも、正殿から吹く心地好い風に吹かれながら参詣できたのだ。思わぬ実入りだ。今年も変化がある年なのだろう。
 餉は思い切り奮発して、2500円のひつまぶしを風情ある木造家屋の店で頂いた。ひつまぶしも美味しかったが、木造家屋の風情も良かった。純和風の部屋は何処か落ち着くし、脈絡と受け継がれてきたお伊勢詣りの薫りがするのだ。その薫りを身体中吸いながら、伊勢茶を啜る。丁度、団体旅行の一行が昼餉を摂っていたが、昼から豪快に麦酒を啜っていた。それもスイスイと。日常から見れば眉を顰められる「昼から麦酒」も、此処では許されるから面白い。精進落としだ。
 その後は名古屋の大須観音に立ち寄って、土産をあれこれ買い込んだり、メイドカフェでメイドとあれこれ会話しながら一服したりして、初詣の緊張を解した。精進落としとして。

 れが2013年の初詣の記録だが、此処で首を傾げた方はいらっしゃるだろうか。
 そう、最初に「和歌を8つ程披露したい」と出ているので、8つの和歌がある筈だろうが、良く数えてみると7つしか上げられていない。此処は、ちょっとした遊び心を働かせて、〆として残しておいた和歌があるのだ。
 近鉄で松阪から伊勢市へ向かっていて、斎宮(さいくう)という駅に近付いた時に、一足お先に春を見付けた。熱海で桜が見られなかった慰めとしては、余りあるだろう。これを詠んで、これを締める。


 斎宮や菜の花愛でる冬の旅

 上は伊勢神宮外宮近くにできた新しい和食店。
 中は初詣時のおかげ通り。
 下は初詣時の伊勢神宮内宮の大鳥居。





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