2018年4月27日 中京酔客余興六吟

(2018年4月27日) 中京酔客余興六吟(前)

 の日は、朝から景気付けにきしめんを、時間を気にせずゆっくり啜った。そして、快速亀山行きに飛び乗った。途中の富田で、貨物列車を撮ったり、四日市で小学生の遠足に出くわしたりして、亀山に向かった。亀山駅周辺を歩いた後に、17年振りの関宿を回ったりした。昼餉は豪快に伊賀牛のすき焼きを伊賀上野で頂いた。これが1箇月前、伊勢牛の牛鍋と松阪牛の牛鍋を頂いたので、贅沢の上に贅沢を重ねたようで、何処か夢見心地だった。
 その後、高速バスで名古屋に戻り、名古屋市街地の伏見で宿泊した。
 速、疲れを癒やす為に、風呂に浸かった。痩身から、気怠い溜息が漏れた。
 風呂上がりに冷やしておいた小江戸川越の地ビール、ビーフジャーキーとアーモンドと小魚の素焼きの酒肴、そして、酔い醒ましの紅茶を淹れる為のポットの湯を沸かし、新しく買ったノートパソコンに入っているロス・インディオスを流せば、準備万端。
 今日は結構歩いたし、此処でゆっくり痩身を休ませるとするか。椅子に深く座り、安堵の溜息をゆっくり漏らした。風呂は入り方が正しければ、いい具合に疲れが取れるな、コリャ。
 大人の男と女の世界が広がるロス・インディオスが流れた。旅先の夜は、大抵はこのユニットの曲を聴く。この曲を聴くと、極力実践したい大人の男と女の世界が垣間見られるので、興味が尽きない。この世界の魅力を知っている独身貴族が、地ビールを啜りながら書いた余興をご披露したい。余計な緊張は要らないから、ゆったりとした状態でこれを読んで貰えたら幸いである。

 シングルでお風呂上がりのティータイム独身貴族にロス・インディオス

 から動き通しで、休む暇が無かった今日の旅。
 漸く、シングルルームで寛ぎのティータイムが始まった。四十路間近でもなかなか結婚の縁に出逢えぬ独身貴族がBGMとして選ぶ、大人の男と女の世界が広がるロス・インディオス。夜に聴くに相応しい(ふさわしい)し、四十路間近の元若者が聴いても違和感が無い。
 き慣れた曲が流れ、まずは余分な酒精(アルコール)が入らないように、ゴールデンアッサムを軽く1杯啜ることにした。茶葉の味がよく判る一品で、「ゴールデン」と謳うには相応しい。この深い紅茶独特の深い香味を、鼻と口で娯しんだ。地ビールを啜る前に陶酔しそうだ。
 そして、酒肴を抓んだ。ビーフジャーキーは楽に抓めるが、アーモンドと小魚の素焼きは少ししか抓めず、袋を傾けて、そのまま口中に放り込むことにした。

 縛られぬ独身貴族ぬばたまの嫁の黒髪想ふ夜かな

 (他人事ながら)れにしても、随分気楽な旅人だこと。四十路ならもう結婚の沙汰が聞こえてもいい頃だが、この独身貴族にはその音沙汰すら聞こえない。あったとしても、鬱に痩身を窶している上、心身のバランスが余り良くないからだ。しかし、悪いことだけではない。このように気晴らしの旅に出ても、後ろ指を指される心配は無いからだ。しかも、家庭や世間体に縛られる心配は無いからだ。ステータスに縛られて、無理に家庭を持つことはない。縁があったら、持つ方がいいのだ。その頃には、心身のバランスが今よりも良くなっているだろう。
 とは言うものの、私の未来の嫁は、一体何処にいるのかな? 紅茶を啜りながら、ふと考える。すぐそこにいるのかな。もしかして、まだ生まれていないのかも知れないし、そうだとしたら、酷い被害妄想だ。その子が成人になったら、もう私は六十路で、何をするにも時間が無いからだ。そして、その子から満面の笑みで「私の主人」ではなく、「お父さん」と呼ばれたら、目も当てられないな。紅茶の渋みが際立った。
 話題を本線に戻して。
 分晴らしに、外を眺めた。淡い感じの黒だった。都会の名古屋だから、ビルの照明が鬱陶しく点っていて、(2013年1月の「癸巳初詣歌集」を参照)松阪と較べて夜の感じが薄い。でも、黒と言えばそうかも。そこから、未来の嫁の黒髪を彷彿してしまう。
 「ぬばたま(射干玉)」は枕詞で、「黒」、「夕」、「夜」、「夢」、「月」と夜に関係する言葉に掛かる。今回は「黒」を用いて、女性の黒髪に繋げた。
 して、冷やして置いた地ビールを開け、コップに注ごうとしたが、紅茶で埋まっている。洗面所にはうがい用のプラスチックのコップがあるが、これに地ビールを注ぐなんて、随分不格好なので、ラッパ飲みすることにした。
 シトラス系の爽やかな香味が口中を走った。目が思わず眩んだ。これが地ビールなの? 正直言って苦みが余りなくて、飲み易いぞ。砕けて言うと、ちょっと苦みがある発泡性のカクテルのような地ビールだ。初めて飲むわ。と2口目を啜った。



(2018年4月27日) 中京酔客余興六吟(後)

 薫り良き麦酒啜りて微酔いぬ月は何処と啜りし麦酒

 く程香味がよい地ビールが進んで、紅茶を啜ったり酒肴を抓んだりしている内に、いい具合に微酔い(ほろよい)になった。此処は紅茶を優先的に啜るとしよう。でも、あのシトラス系の香味が忘れられず、また地ビールに手が伸びる。
 うしている内に、紅茶が尽きて、2杯目に入った。その紅茶を啜って、身体を落ち着かせてから、地ビールを啜った。しかし、椅子に座り、ロス・インディオスを聴きながら地ビールを啜るのではなく、景色を眺めながら啜るとしよう。その方が風流だ。
 所が、見えるのは建設途中のビルの鉄骨と、こんな時間に残業しているオフィスビルだけという無粋な物。肝心の月は何処にあるのか。地ビールを啜りながら方々を捜すが、全く見つからず、溜息だけが漏れた。大都会の夜で、シングルルームから月を捜すのは、至難の業なのかな。
 月を捜すのは諦めて、また椅子に座った。酔い醒ましの紅茶を、一滴も残さずにゆっくり啜り、溜息を漏らした。そして、3杯目を淹れた。
 ートパソコンは相変わらず、ロス・インディオスを流していた。四十路間近になると、各々の曲の雰囲気や歌詞が判るようになり、それに沿った恋愛を繰り広げたいと思う。だけど、その縁は薄過ぎて、その憂さ晴らしの地ビールに手が伸びた。
 だめだ。自棄酒は旅先で披露した粋人に相応しくない。四十路間近の元若者で粋人を目指すのなら、酒の飲み方位、粋人らしく行きたい。淹れた紅茶で気を落ち着かせ、未来の嫁が現れるその時を待つのだ。

 漆黒の夜から黒髪我の嫁何処も捜せず溜息を吐く

 空から嫁の黒髪を彷彿してしまうことは先述したが、その嫁は何処にいるのか探す術すら知らず、時ばかり過ぎていてしまい、焦りを憶えてしまう私に溜息が漏れた。
 此処で地ビールを啜った。シトラス系の香味が気付けになったが、未来の嫁を捜す術が見つからない現状は変わらない。もう一杯、地ビールを……、だめだ。自棄酒になるから、紅茶で静めよう。一番好きなレディグレイを淹れたから、少しは気が静まるだろう。
 レディグレイもシトラス系の香味が特徴の紅茶。ゆっくり啜ったら、ほぉっと溜息が漏れた。
 ロス・インディオスは別の曲を流していた。

 四十路でも焦りは禁物正しくば胸張りて進め選ばれし我

 の短歌は、「いさかひは浮き世の常ぞ正しくばほほえみていけ我は父の子」がこの短歌のベースで、「争いが起こるのは致し方ないが、自分は清朝の子供として力強く進めばいいのだ」というのが解釈だ。これを作ったのは、「男装の麗人」として名高い川島芳子だ。彼女は日本人を名乗っていた中国人で、清朝復興を目指して日本軍と組んでいたが、終戦後漢奸(かんかん 中国を裏切った中国人)として捕らえられた。実はこの時、彼女は短歌を認めていて、何れもその心境に沿っている。
 四十路間近で、家庭が持てないのは、正直焦りがあるが、誰もが「焦りは禁物」と忠告する。きっと、誰もが羨む最高の女性と結婚することだってあるのだ。その時まで、独身貴族として闊歩すればいいのだ。

 微酔ひてメロディー浸る恋の歌出逢ひも別れも両目に涙

 ビールも少なくなり、紅茶も3杯目が少なくなってきた。酒肴を抓む手も鈍くなり、ロス・インディオスを聴く比率が高くなってきた。
 んな時に流れた、一つの曲。大人の恋の歌で、出逢った男女が愛しながらも、一緒になれなかったという流れ。出逢ひと別れが背中合わせの歌だ。微酔い状態なので、その雰囲気にのめり込み易くなっている。「会うは別れの始めなり」と言うが、その言葉が必要以上に重くのしかかってきて、涙ぐんでしまう。そういえば、明日は或るユニットの握手会があって、卒業するメンバーに餞別を贈ろうとしているから、一層そうなってしまう。
 私はその理(ことわり)を悟りながら、ゆっくり地ビールを啜り、シトラス系の香味を最後まで娯んだ後に、ゆっくり紅茶を啜った。





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